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神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)280号 判決 1989年5月31日

原告(第二事件被告)

河村健夫

被告(第二事件原告)

甲野花子(仮名)

被告

深堀竜一

第二事件原告

甲野星子(仮名)

主文

一  昭和六三年(ワ)第二八〇号事件につき

1(一)  原告と被告甲野花子間において、原告の被告甲野花子に対する別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務が金九六万一一三七円を越えて存在しないことを確認する。

(二)  原告の被告甲野花子に対するその余の請求を棄却する。

2  原告と被告深堀竜一間において、原告の被告深堀竜一に対する別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務が存在しないことを確認する。

3  訴訟費用中原告と被告甲野花子間の分はこれを二分し、その一を原告の、その一を右被告の、各負担とし、原告と被告深堀竜一間の分は、全部右被告の負担とする。

二  昭和六三年(ワ)第一七〇九号事件につき

1  被告河村健夫は、原告甲野花子に対し、金九六万一一三七円及び内金八七万一一三七円に対する昭和六三年一月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告河村健夫は、原告甲野星子に対し、金三三万三〇〇〇円及び内金三〇万三〇〇〇円に対する昭和六三年一月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  原告甲野花子、同甲野星子のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告甲野花子、同甲野星子の、その一を被告河村健夫の、各負担とする。

5  この判決は、原告甲野花子、同甲野星子勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

以下、「昭和六三年(ワ)第二八〇号事件」を「第一事件」と、「昭和六三年(ワ)第一七〇九号事件」を「第二事件」と、「昭和六三年(ワ)第二八〇号事件原告同年(ワ)第一七〇九号事件被告河村健夫」を「原告河村」と、「昭和六三年(ワ)第二八〇号事件被告同年(ワ)第一七〇九号事件原告甲野花子」を「被告甲野花子」と、「昭和六三年(ワ)第二八〇号事件被告深堀竜一」を「被告深堀」と、「昭和六三年(ワ)第一七〇九号事件原告甲野星子」を「被告甲野星子」と、各略称する。

第一当事者双方の求めた裁判

一  第一事件

1  原告河村

(一) 原告と被告甲野花子、同深堀間において、別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく各損害賠償債務が存在しないことを確認する。

(二) 訴訟費用は、被告等の負担とする。

2  被告等

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

二  第二事件

1  被告甲野花子、同甲野星子

(一)(1) 原告河村は、被告甲野花子に対し、金三六四万二六〇〇円及び内金三三四万二六〇〇円に対する昭和六三年一月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 原告河村は、被告甲野星子に対し、金五二万三〇〇〇円及び内金四五万三〇〇〇円に対する昭和六三年一月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は、原告河村の負担とする。

(三) 仮執行の宣言。

2  原告河村

(一) 被告甲野花子、同甲野星子の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、被告等の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  第一事件

1  原告河村の請求原因

(二) 別紙交通事故目録記載の交通事故(以下本件事故という。)が、発生した。

(二) 被告等は、右事故により受傷したとし、被告甲野花子は、吉田病院に通院し一か月金九〇万円の割合による休業損害があると、被告深堀も、治療費その他の損害があると、それぞれ主張している。

原告河村は、昭和六三年一月末日頃、被告甲野花子に対し、金二〇万九六三〇円を支払つた。

(三) しかしながら、右事故は、原告車と被告車相互の側面が僅かに接触した軽微な事故であり、被告等に傷害は発生し得ない。

仮に、被告甲野花子に傷害が発生したとしても、同人の右傷害に基づく損害は、右支払金金二〇万九六三〇円で填補され存在しない。

(四) よつて、原告河村は、本訴により、同人と被告甲野花子、同深堀との間で、原告河村の被告等に対する右事故に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める。

2  請求原因に対する被告等の答弁及び抗弁

(一) 答弁

請求原因(一)、(二)の各事実は認める。同(三)の事実及び主張は争う。同(四)の主張は争う。

(二) 被告甲野花子の抗弁

被告甲野花子が本件事故により金二〇万九六三〇円以上の損害を蒙つたことは、第二事件の請求原因において主張するとおりである。

そこで、被告甲野花子は、右請求原因の主張を本訴における抗弁として引用する。

3  抗弁に対する原告河村の答弁

第二事件の請求原因に対する答弁のとおりである。

二  第二事件

1  被告甲野花子、同甲野星子の請求原因

(一) 本件事故が発生した。

(二) 原告河村は、右事故当時、原告車を所有していた。

よつて、原告河村には、自賠法三条により、被告等が右事故により蒙つた損害を賠償する責任がある。

(三) 被告等の本件損害は、次のとおりである。

(1) 被告甲野花子

(イ) 治療費 金四万二六〇〇円

(ロ) 休業損害 金二七〇万円

(a) 被告甲野花子は、本件事故当時男性への接客業に従事し、一か月平均金九〇万円の収入を得ていた。

(b) 右被告は、右事故により受傷し、右事故当日である昭和六三年一月五日から同年四月一二日まで通院治療し、その間少くとも三か月は休業を余儀なくされた。

(c) よつて、右被告の本件休業損害は、合計金二七〇万円となる。

(ハ) 慰謝料 金六〇万円

(ニ) 弁護士費用 金三〇万円

(ホ) 以上の合計額は、金三六四万二六〇〇円となる。

(2) 被告甲野星子

(イ) 治療費 金五万三〇〇〇円

(ロ) 慰謝料 金四〇万円

被告甲野星子は、本件事故により受傷し、昭和六三年一月一三日から同年三月二六日まで通院した。

(ハ) 弁護士費用 金七万円

(ニ) 以上の合計額は、金五二万三〇〇〇円となる。

(四) よつて、被告甲野花子、同甲野星子は、本訴により、原告河村に対し、被告甲野花子において本件損害金三六四万二六〇〇円及び弁護士費用金三〇万円を除いた内金三三四万二六〇〇円に対する本件事故当日の昭和六三年一月五日(以下同じ。)から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、被告甲野星子において本件損害金五二万三〇〇〇円及び弁護士費用金七万円を除いた内金四五万三〇〇〇円に対する昭和六三年一月五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、各支払を求める。

2  請求原因に対する原告河村の答弁及び抗弁

(一) 答弁

請求原因(一)の事実は認める。同(二)の事実は認めるが、その主張は争う。同(三)(1)(ロ)の事実は否認し、同(三)のその余の事実は不知、その主張は争う。同(四)の主張は争う。

(二) 抗弁

原告河村は、昭和六三年一月末日頃、被告甲野花子に対し、本件損害に関し金二〇万九六三〇円を支払つた。

仮に、被告甲野花子に本件損害が発生したとしても、同人の右受領金金二〇万九六三〇円は、同人の右損害に対する填補として同人の右損害から控除されるべきである。

3  抗弁に対する被告甲野花子の答弁

抗弁事実は認める。

第三証拠関係

本件記録中の、書証、証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一第一事件

一  請求原因(一)、(二)の各事実は、当事者間に争いがない。

二1  被告甲野花子の抗弁に対する判断は、同人の第二事件における請求原因に対する判断と同じであるから、これを引用する。

2  被告深堀につき、本件事故に基づく損害の発生、内容、金額に関する具体的事実の主張・立証がない。

三  右認定に基づけば、

1  原告河村と被告甲野花子との間では、原告河村の右被告に対する本件事故に基づく損害賠償債務金九六万一一三七円が現在なお存在し、したがつて、原告河村の右被告に対する本訴債務不存在確認請求は、右損害賠償債務が金九六万一一三七円を越えて存在しないことの確認を求める部分で理由があるが、その余は理由がないというべきである。

2  原告河村と被告深堀との間において、原告河村の右被告に対する本件事故に基づく損害賠償債務は存在しない、したがつて、原告河村の右被告に対する本訴債務不存在確認請求は、全て理由があるというべきである。

第二第二事件

一1  請求原因(一)、(二)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  右事実に基づけば、原告河村には、自賠法三条により、被告甲野花子、同甲野星子が本件事故により蒙つた後叙損害を賠償する責任があるというべきである。

3  被告甲野花子と同甲野星子の本件損害は、次のとおりである。

(一) 被告甲野花子分

(1) 治療費 金三万〇七六七円

(イ) 成立に争いのない甲第二号証、第三号証、乙第一、第二号証、原告河村本人、被告甲野花子本人の各尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(a) 被告車は、本件事故により、左前部フエンダー及び車体左ドアーに線状の損傷を受けたが、被告甲野花子は、右事故当時、右車両助手席に乗つていて、右事故直前、右車両運転席前部に付設されているカセツトのテープを取り換えようとして前かがみになつていた。そして、同人の頭部左側部と左肩部が、右事故に関して生じた衝撃により右車両車体内部左側部分に当つた。

(b) 同人は、右事故後、神戸市内所在金沢病院で診察を受け、頸部捻挫、左肩部打撲の診断を受けた。

なお、同人は、右診察の際、レントゲン写真、CTスキヤンによる各検査を受けたが、いずれも異常結果は認められなかつた。

(c) 同人は、その後、同市内所在吉田病院に転院して外傷性頸部症候群の病名によりその治療を受けたが、同病院の担当医訴外福光太郎の所見は、被告甲野花子の症状は同人の自覚症状が主体であり、昭和六三年三月末日頃をもつて症状固定時期とするのが妥当と思料する、というにある。

(d) 同人は、昭和六三年三月一日から同年四月一二日まで右病院へ通院(実治療日数一八日。同年三月中一三日、同年四月中五日。)し、その治療費が金四万二六〇〇円である。

(ロ) 右認定各事実に基づけば、被告甲野花子の本件受傷に対する治療期間中本件事故と相当因果関係に立つ治療期間は、本件事故当日の昭和六三年一月五日から同年三月三一日までと認めるのが相当である。

したがつて、被告甲野花子の本訴請求治療費中右事故と相当因果関係に立つ損害(以下単に本件損害という。)としての治療費は、同年三月中の金三万〇七六七円と認めるのが相当である。

(2) 休業損害 金七五万円

(イ) 被告甲野花子の本件受傷内容、その相当治療期間は、前叙認定のとおりである。

(ロ) 前掲乙第一号証、被告甲野花子本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第五号証、右被告の右供述及び弁論の前趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆すに足りる証拠はない。

(a) 被告甲野花子は、本件事故当時二八歳(昭和三五年四月二三日生)で、神戸市兵庫区福原町所在訴外有限会社諏訪山商事に所属し、特殊浴場従業員所謂ソープランド嬢として稼働し、その職歴は約八年に及んでいた。

(b) 同人は、昭和六二年一二月一〇日から同月三一日までの間一八日稼働し金九〇万円の収入を得ていた。

(c) 同人は、同月一〇日以前にも同種稼働をしていたが、一か月平均二〇日稼働し、ほぼ右同額の収入を得ていた。

(d) 同人は、本件事故当日である昭和六三年一月五日から同年三月三一日まで本件受傷のため休業せざるを得なかつた。

(ハ) 右認定にかかる被告甲野花子が本件事故当時稼働していた右職種内容から同人の得ていた右収入中には公序良俗に反する行為によつて得た収入が含まれていると推認され得るところ、右収入部分は、本件損害としての休業損害算定の基礎収入として採用し得ず、したがつて、右収入部分を除外した収入部分をもつて右休業損害算定の基礎収入とせざるを得ない。

しかして、所謂ソープランド嬢の収入中右認定にかかる所謂公序良俗に反する行為による収入はその収入中の六〇パーセントないし七〇パーセントであることは当裁判所に顕著な事実であるところ、本件においては、同人の前叙認定にかかる年齢職歴等から見て、同人は所謂熟練者であり、したがつて、右行為による収入割合も大きいと推認される故右認定にかかる同人の右総収入中右行為による収入部分を比較的多目に除外し、本件休業損害算定の基礎とすべき収入は、右認定にかかる金九〇万円の内金二二万五〇〇〇円、一日当り金一万二五〇〇円と認めるのが相当である。

しからば、同人の本件損害としての休業損害は、金七五万円と認めるのが相当である。

1万2500円×(20日×3)=75万円

(3) 慰謝料 金三〇万円

被告甲野花子の本件受傷の内容、その治療状況は、前叙認定のとおりである。

右認定事実に基づけば、同人の本件通院慰謝料は、金三〇万円と認めるのが相当である。

(4) 以上の認定から、被告甲野花子の本件損害の合計額は、金一〇八万〇七六七円となる。

(二) 被告甲野星子分

(1) 治療費 金五万三〇〇〇円

成立に争いのない乙第六号証、被告甲野花子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告甲野星子は本件事故により左頸部損傷の傷害を受け、本件事故後の昭和六三年一月一三日から同年三月二六日まで静岡市駿府町所在ふれアイ治療院に通院(実治療日数一三日)して治療を受け、その治療費金五万三〇〇〇円を要したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実に基づけば、被告甲野星子の右治療費金五万三〇〇〇円を本件損害と認める。

(2) 慰謝料 金二五万円

被告甲野星子の本件受傷内容、その治療状況は、右認定のとおりである。

右認定事実に基づけば、同人の本件通院慰謝料は、金二五万円と認めるのが相当である。

(3) 以上の認定から、被告甲野星子の本件損害の合計額は、金三〇万三〇〇〇円となる。

二  原告河村の被告甲野花子に対する抗弁について判断する。

1  抗弁事実は、当事者間に争いがない。

2  右事実に基づくと、被告甲野花子が受領した金二〇万九六三〇円は、同人の本件損害に対する填補として同人の前叙本件損害金一〇八万〇七六七円から控除すべきである。

そうすると、同人の右控除後における本件損害額は金八七万一一三七円となる。

三  弁護士費用 被告甲野花子分金九万円

同 甲野星子分金三万円

弁論の全趣旨によれば、被告甲野花子、同甲野星子は、原告河村が本件損害の賠償を任意に履行せず、しかも本訴債務不存在確認請求の訴を提起され、これに対する応訴及び反訴の提起を余儀なくされ、弁護士である被告等訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任し、その際相当額の弁護士費用を支払う旨約したことが認められるところ、右訴訟追行の難易度、その経緯、前叙認容額等に鑑み、本件損害としての弁護士費用は、被告甲野花子分金九万円、同甲野星子分金三万円と認めるのが相当である。

四  結論

叙上の認定説示を総合し、

1  被告甲野花子は、原告河村に対し、本件損害合計金九六万一一三七円及び弁護士費用金九万円を除く(この点は、右被告自身の主張に基づく。)内金八七万一一三七円に対する本件事故当日である(以下同じ。)昭和六三年一月五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、

2  被告甲野星子は、原告河村に対し、本件損害金三三万三〇〇〇円及び弁護士費用金三万円を除いた内金三〇万三〇〇〇円に対する昭和六三年一月五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、

各求める権利を有するというべきである。

第三全体の結論

以上の次第で、原告河村の本訴債務不存在確認請求(第一事件)中被告甲野花子に対する分は、右認定の範囲内で理由があるから、その範囲内でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、被告深堀に対する分は、全て理由があるからこれを認容し、被告甲野花子、同甲野星子の本訴損害賠償請求(第二事件)は、右認定の限度で理由があるから、これ等をその範囲内で認容し、その余は理由がないから、これ等を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言(第二事件)につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助)

交通事故目録

発生日時 昭和六三年一月五日午後五時五五分頃

発生場所 神戸市中央区布引町四丁目二―三

加害者(原告車) 原告河村運転の普通乗用自動車

被害者(被告者) 被告深堀運転の普通乗用自動車

右同乗者 被告甲野花子・同甲野星子

事故態様 原告河村が原告車を停止後右に転把した際、その右側横を直進中の被告車の左側面と原告車の右側面が接触した。

以上

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